製造業の未来はIoTとともにあります
「スマート工場」「スマートファクトリー」と言った言葉を耳にすることが多くないでしょうか。またインダストリー4.0などの似たような言葉を聞いたことはないでしょうか。
スマート工場とは工場の工作機械や生産ラインなどにIoTやビッグデータやAIを導入し生産性の工場や品質管理の向上を図ることを指します。
これがどのようなものであるかを説明します。
現在の工場の課題と期待される解決

現在の製造現場の課題はどのようものがあるのでしょうか?
生産計画の硬直性
工場は計画に従って生産し、機械の故障などのトラブルや部品供給の遅れなどが生じるとラインを止める必要があります。また生産能力よりも高い受注があると納期を遅らせるしかないこともあります。
機械の故障とその予知
工場の機械は定期的にメンテナンスをしますが、その定期メンテナンスで発見できなかった故障が生じたときに、生産の遅れや事故などが発生してしまうリスクが高まります。しかし定期メンテナンスの頻度を上げることはコストの増加に繋がりますし、異音や振動などから故障を予測するのは多くの場合職人技に頼ってしまうことになります。
スタッフの熟練度に依存
硬直的な計画の中でやりくりすることや、異音などから機械の故障の予兆を「読み取る」ことはスタッフの腕の見せ所ではあるのですが、その分だけ品質が熟練度に依存してしまうということになります。
これらの課題をIoTやビッグデータやAIを活用して解決しようというのがスマート工場の考え方になります。
どのようにIoTを使うか

IoTとは、(Internet of Things=モノのインターネット)と呼ばれます。「身の回りのあらゆるモノがインターネットにつながる」ということで、実際にスマートフォン、スマート家電、スマートハウスなどが身近なIoTとして活用されています。
それぞれのモノがインターネットを介して相互通信することで、遠隔からもそれぞれのモノの状況を認識・計測したり、制御したり、自動化することも可能になります。
認識・計測とは、それまではデータとして集められていなかった情報を収集し数値化することです。センサーなどのIoTデバイスによって、見えなかったデータの可視化が可能になります。
センサーが搭載された機械を効率的に制御することも可能です。インターネットを通じて遠隔操作できることや、閾値の設定による自動制御(温度が上がりすぎたので機械を止めるなど)によって、データをもとにした動作を実現できます。
自動化は、AI等によって制御事態の自動化も追求しています。システムが自律的に動くために、効率化による生産性の工場や人材不足の解消にもなります。
これらを集められるデータの量からみるとビッグデータということになり、そのデータからどのような知見が得られるかに着目するとAIということになります。
工場の場合は、各機械を通信回線で結ぶことや、その工場の工程や生産物などを計測するセンサーを設置し、その機械やセンサーをインターネットを使って集約的に管理して生産状況などを把握し、より効率的な生産体制を考案し、実施することをめざします。
現状、多くの製造現場ではライン生産やセル生産が採用されており、そのどちらともリアルタイムに連携することで、柔軟性のある生産体制と高付加価値の生産物を製造するのがスマート工場の目的となります。
世界のスマート工場の状況
工場のスマート化の取り組みは、海外でも行われています。ドイツの「Industry4.0(インダストリー4.0)」が有名で、Industry4.0は日本語では第4次産業革命と訳されています。ドイツ政府が2011年に発表し産官学共同で進めている国家プロジェクトです。そのコンセプトがスマート工場だったので、一躍有名になりました。製造業大国のドイツが主要な競合国である日本の「トヨタ生産方式」やアメリカの「リーン生産方式」に対抗する手段として確立しようとする目的があったようです。
中国の「中国製造2025」やインドの「Make in India」などでも同様の施策をうちだしており、工場のスマート化は世界的な流れと言えます。
スマート工場の課題

スマート工場への取り組みは世界各国で推進されていますが、その反面でその課題も浮き彫りになってきています。
投資効率が算定しにくい
もともと今まで可視化できていなかったデータを活用して役立てようという話なので、何が得られて何ができるようになるのかは手探りのところがあります。これは事前に費用対効果の予測をきっちりと立てるべきだという考え方と対立するものです。そのためアイデアはおもしろいが効果がわからないので予算が出ないということになりがちです。
機械や仕様のばらつき
社内だけではなく社外の担当者もベンダーもバラバラで、知識や熱意に差がありゴールの共有ができないという意味のばらつきもありますが、先進事例もあるとは言えIoTがまだ全体で見ればパイロット段階であり、デファクト・スタンダードが成立しておらず、データの共有や制御といったことについて接続が難しいという問題を抱えています。
人手不足
社内にスマート機器をすぐに活用できる人がおらず、またデータの解析は今まで職人技であったものの知識家でもあることから、技術面でも経験面でも高いレベルの統合が必要で、汎用的な人材を連れてくればできるというものではないという課題があります。
課題の解決に向けて

それでもスマート工場化は止められない流れとして、各製造現場が自分たちで試行錯誤しながら行っています。日本のスマート工場化はこういった積み上げ型になることが多く、高いビジョンとコンセプトを持った欧米のコンセプチュアルなスマート工場化と比べると「遅れている」と言われるところもありますが、日本の製造業が従来得意としてきた「カイゼン」の延長線上に現実的な解決策を模索していくのも、日本の現状にあったやり方ではないでしょうか。
ある事例を紹介します。IoTによる省エネを実現した工場です。
ある富山県の工場は窓を締めて空調で温度調整を行っていました。
しかし、風向きや風速や温度や湿度、それらから割り出した快適性と消費電力で、空調設備を使わなくても自然光で快適さを保てるタイミングが分かるようになりました。これによって夏場の空調エネルギーを17%削減しました。
これなどはある意味では泥臭いカイゼンですが、でもセンサーによる見える化から始めてしっかりとした定量的な結果を出しており、良い実践というように言えるのではないでしょうか。
スマート工場化のステップは、
- 認識・計測
- 制御
- 自動化
というように進めると言われています。3の自動化はたしかに事例として目立ちますし、AIの利用ということで極めて先進的に見えますが、それもまずは1の認識・計測をやったからできることであり、まずはこの段階、別のおなじみの言い方でいうと「見える化」から始めるのが良いのではないかと言われています。まず見える化し、そこから出てきた数値をフィードバックすることで関係者で情報を共有し、ゴールをイメージし、現実的な実現方法を探っていく、こういったステップを積み重ねることが、先に述べた課題を解決する方法論となるのではないかと思います。
見える化段階で必要なもの
まずは見える化から先に行うとすると、必要なものはおのずから見えてきます。
- ● 温度やドアの開け締めなどの基本的な情報を取得するセンサー
- とれるデータは無限にありますが、まずは基本的なデータを取得して何が分かるのかを検討します。
- ● 工場内でも通信できる無線通信能力
- 多くの製造現場は有線の取り回しは難しいためです。
- ● 長寿命の電池
- センサーの設置場所はアプローチが容易なところだけとは限らず、ラインを止めなければ入れないところもあるでしょうし、電源ケーブルを取り回せない所も多いと思います。そういった場所にアクセスするタイミングはなるだけ減らすべきだからです。
- ● 安価さ
- 単に一般論として安いほうが良いというのではなくて、高いシステムを導入してしまうとトライアンドエラーに躊躇してしまうからです。まずやってみて、フィードバックを受けて、想像してみて、また試してみる。100万円の機械でこれを1回まわすよりも1万円の機械で100回まわすほうが価値があります。
これらがスマート工場のためのIoT機器のガイドラインとなるでしょう。